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2006年9月

2006年9月16日 (土)

質問受け付けます(JB-POT直前講座2006-9)

受験生のみなさまはラストスパートに忙しいことと思います。

TEEに関する質問やコメントは17日正午まで受付し、その夜までには回答する予定です。
その他(進路相談から耐震建築まで?)は、随時回答させていただきます。

今回、私は長崎の学会は参加いたしませんが、10月の臨床麻酔学会ではTEEの教育公演を一コマ担当する予定であります。

では皆様、旭山動物園…ではなく旭川でお会いしましょう。

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2006年9月11日 (月)

Swan-Ganz挿入困難(JB-POT直前講座2006-8)

TR,PHを術前より指摘されている症例では、しばしばSwan-Ganzカテーテルが挿入困難である。SGカテの挿入困難な場合、教科書的には放射線ガイド下の挿入が勧められるが、TEEガイド下の挿入もなかなか有用である(というか、私はこれしか知らない)。TEEでカテーテルが進むべき方向の見当をつけ、同時に弁の開閉するリズムをつかみ、カテーテルを挿入するタイミングをつかむ。具体的な手順は以下のとおりである。

まず、気管内挿管が終わったら、TEEプローべを挿入しておき、内頚静脈への清潔操作をはじめる。

A.刺入部からRAまで

90度のbi-caval viewで画面右側に見えるのがSVCである。カテーテルを15cm程度進めれば、右側から線状の人工が見えるはず。バルーンを膨らませれば先端がわかりやすいが、同時にバルーンの両サイドに弧状のアーチファクト(Side Lobe)が出現するので、カテーテルのワイヤー部と混同しないようにする必要がある。Side Lobeはエコー画面の扇形の縁と同心円状に出現するので、注意深く観察すれば区別できる。

B.T弁を突破(RAからRV)

TRのある症例では第一関門である。45度でA弁がベンツのマークように描出できる画面を探すと、同時にA弁の9時方向にRA、6時方向にRV、3時方向にPAが描出できるはずである。心電図の同期音のリズムを頭の片隅で刻みながら、画面でTが開くタイミングを確認し、T弁が開いた隙に5cm程度ずつカテーテルを進める。RA内に明らかにループが見えるようならば、バルーンを萎ませてループが消失するまでカテを引き戻す。

C.P弁を突破(RVからPA)

Bと同様の画面で、心電図の同期音のリズムを参考にP弁が開くタイミング(P弁が描出困難ならばA弁の開くタイミングにあわせる)をつかみ、5cm程度ずつカテーテルを進める。教科書的には「バルーンを楔入させ、PCWPを確認せよ」とあるが、PHや低心機能の症例ではしばしばバルーンは楔入しない。やみくもにPCWPを追求することは、しばしばカテーテルの肺動脈への穿孔をまねきやすい。

D.左右肺動脈への選択的挿入

上部食道で0度のまま軽くUpをかけると、主肺動脈+右肺動脈+左肺動脈の基部が描出できる。左肺動脈のほとんどは気管の影になるため、TEEでは描出できない(Blind Zoneと呼ばれる)。SGカテは、自然な屈曲があるため、約9割の症例では右肺動脈に流れ着く。右肺全摘など、左肺動脈へのSGカテ挿入が必要な場合には、上記の画面を出しながら、カテにトルクをかけながら進める。


忘れてはならないのは、SGカテの挿入は手段であって目的でなはい。SGカテ挿入に夢中になるあまり、その間に「点滴が全開になっており、心不全患者に急速輸液がされていた」といった事態は、ありがちだが、あってはならないことなのである。「20分以内」などと時間を決めて、それまでにSGカテを肺動脈まで進められなかったならば、スリーブを着せていったん撤退し、体位を整え、外科医が手洗いに行っている間に再挑戦すればいいのである。


また、SGカテの2大合併症は肺動脈穿孔とカテーテル縫込である。

肺動脈穿孔:穿孔が疑われたならば、基本的にはカテーテルを抜いてはいけない。カテーテルがあることで穴からの出血がおさまっていることがあるからである。盲目的にカテーテルを抜いたならば、一気にに出血し、同時に出血点を見失うおそれがある。

カテーテル縫込:SGカテを使用した症例では、閉胸時にカテーテルを5cm程度ひっぱって、カテーテルが動くことを確認しておく。動かない場合には(退室前に)大声で騒ぐ。一回これを見つけると、どんなに横柄な心臓外科医でも、その後しばらくはおとなしくなる(はずである)・・・

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2006年9月 9日 (土)

Swan-GanzとTEE(JB-POT直前講座2006-7)

先日、ひさびさにSwan-Ganzカテーテルを挿入した。よく考えたら、2006年の初Swan-Ganzだった。うちの大学では、10年前から開心術の全例(含む小児)でTEEを使用している一方で、2006年現在開心術の95%以上の症例ではSGカテを使用していない。というのも

「術中にSwan-Ganzカテーテルで得られる情報のほとんどはTEEで得られる」というのが当院のモットーである。個人的にも「TEEとSGから得られるデータの量と質は、テレビとラジオぐらい違う」と思っている。よって「ラジオニュースをテレビで確認することはあっても、その逆はまず不要」だと考えている。


具体的には

 A.PA圧→TRより簡易ベルヌーイの式から算出する

 B.Cardiac Output (Cardiac Index)→TEEよりStroke Volumeを算出しHRを乗じて算出(さらに体表面積で補正)

 C.PCWP
PCWPそのものは直接TEEでは算出できない。しかしPCWPが臨床的重要なのは、(PCWP≒LAPであり)LAPは左心機能の前負荷の指標となるからである(CVPが右心機能の指標であるように)。前負荷の指標ならば、LVEDV:LV end-diastolic volumeが(もっと簡潔にはDs: diameter of systoleが)TEEによって測定可能である。

よって、麻酔科医が術中に前負荷の指標が必要ならば、LV短軸像で収縮期の直径を観察し、その推移を把握しておけば臨床的には十分だとおもう。そしてLVEDVやDsはTEEを挿入できる症例ならば、ほぼ全例で測定可能である。

一方SGカテのPCWPは、肺高血圧や心不全症例ではしばしばバルーンが楔入しない。臨床的に前負荷の指標が欲しい重症例において、えてしてデータが得られないというジレンマがある。

 D.SvO2(混合静脈血酸素飽和度)
SvO2はTEEでは測定できない。しかし、開心術や(SGカテの挿入が検討されるような)重症心不全ならばCVPカテーテルはまず挿入されているので、そこから採血した血液のSaO2を測定すれば概算値は推定できる。SVC=上半身の静脈血になるので厳密には混合静脈血ではないが、臨床的には十分だとおもう。近年では各種の測定機能をそなえたCVPカテーテルも開発されており、SGの必要性というのはますます薄れているようにおもう。

SGはたまには心臓に縫い付けられたり(先々月に某大学付属病院で、縫い付けられたSGカテを無理やり抜去して患者死亡を招き、お約束の白衣の謝罪記者会見がTVで報道された)、肺動脈を突き破ったりすることもある。一方、TEEプローべにはまずその心配はない。外国ではTEEプローべによる食道穿孔の症例報告もあるが、多くはP・・・・社やA・・・・・社のような外資系メーカーの武骨なプローべによるもので、アロカや東芝といった国産メーカーの華奢なプローべによる穿孔の報告は、私はまだ知らない。

しかしながら、当院でもたまにはSGカテを使用している。
SGカテの長所は何だろうか。

 E.ペーシング機能が付加できる

SGカテにはペーシングリードを備え、一時的ペースメーカーとして使用できるものが販売されており、治療手段としても使用可能な種類がある。TEEは基本的には診断しかできない。文献的には食道ペーシング機能をそなえたTEEプローべの研究報告はあるが、私自身は見たことがなく、実用化にはまだまだ時間がかかりそうである。

 F.術後管理など中長期のトレンドを観察
「TEEとSGは、テレビとラジオぐらい違う」と先にのべたが、現代でもラジオの需要がまったく無くなった訳ではない。情報量が少ないからこそ、カーラジオのように「ラジオを聴きながら運転」といった他の操作が可能なのである。術後にICUで、「他の患者の処置をしながらさりげなく心機能のトレンドを観察する」という技は、TEEでは困難である。

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2006年9月 3日 (日)

ロスとTEE(JB-POT直前講座2006-6)

よく考えてみれば最近あまりTEEに役立つ情報がないので、前回の記事に追加しようとおもう。

臓器移植や盛んな米国では、ホモグラフト(死体より採取し、冷凍保存した)弁の入手が容易なため、ロス手術はわが国より盛んに行われている。複雑な肺動脈弁の形成術が不要になるからだ。わが国で「ロスの名手」と噂される心臓外科医の多くが小児の心臓外科医であるのに比べて、米国からの報告は成人を対象とする施設が多いように思う。

ゆえにこの手術をめぐる知識は、NBEなどの試験に出やすい。また、JB-POT出題者の多くはNBE合格者であり米国留学経験者なので、日本では一般的とはいえないこの手術も出題されるリスクは(わが国で行われる件数の割には)高いとおもう。なお、うちの施設は(幸か不幸か)ロス手術を得意とする外科医が在籍している。

若年者の大動脈弁疾患は二尖弁であることが多い。(JB-POT直前講座18)参照。
二尖大動脈弁にロス手術を行う場合、に最初に確認すべきなのは「肺動脈弁が三尖であるか」どうかである。大動脈二尖弁は高率に肺動脈も二尖であり、この場合はロス手術の適応とならない。肺動脈弁は食道から遠く、TEEでの描出が困難なため、術前のTTEで不十分な場合には開胸後に直接肺動脈にプローべをあてて検索されることが多い。

人工心肺離脱後は、とにかく出血との戦いに苦渋することが多い。なんせ、吻合箇所が多いし人工心肺時間も長くなりがちである。かといって、「出血による低血圧」だと思っていたら「植え替えた冠状動脈が屈曲していた」こともあるので、血圧が低下した時にはLV短軸像で「hypovolemia」なのか「asynergyをともなうLV failure」なのかをチェックしておきたい。

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2006年9月 2日 (土)

ロス疑惑2006(JB-POT直前講座2006-5)

更新が滞っており受験生の皆様、申し訳ありません

8月上旬に世間をさわがした医療関連報道のなかに、水戸市の病院において「18才の少年がロス手術の翌日死亡」した事件のことをご記憶だろうか?「自分のレベルをわかっていない外科医が難手術に無謀な挑戦をした挙句の悲劇」といった報道が目立ったが、心臓手術チームの一員として、この事件から学べることについて考えてみようと思う。


1.ロス(Ross)手術について

大動脈弁疾患に対する、弁置換術の一種である。自己の肺動脈弁を切除し、大動脈弁に植え替える。肺動脈弁は、
・A.自己心膜で形成
・B.ゴアテックスシートで形成
・C.ホモグラフト(死体より採取し、冷凍保存した弁)で置換
の3法がある。

・利点としては
 「自己組織なので成長につれて大きくなる」
 「自己組織なのでワーファリン(=催奇性あり)が不要」
とされているが、

・欠点としては
 とにかく難しい。「大動脈から冠状動脈を切り離して大動脈弁を切除し、肺動脈弁を切除し大動脈に植え、冠状動脈を植え替え、肺動脈弁を形成して肺動脈に植える・・・」と文章で書くのは簡単だが、手術時間は8時間~エンドレスである。簡単にホモグラフト肺動脈弁が入手できないわが国では、必然的にAかBで肺動脈弁を形成せざるをえず、ますますこの手術を困難なものにしている。よって、わが国でこの手術を独力で完遂するには、弁置換のみならず、大動脈外科(Bentall)手術をマスターし、冠動脈を植え替える手術(Jateneなど)、肺動脈弁形成術(ファロー四徴手術など)などの先天性心疾患手術経験が必要になると思われる。成人・小児・大血管にわたる広範な心臓外科トレーニングが必要と思われ、現在独立してこの手術を独立して行える心臓外科医は国内でせいぜい20人と推定できる。


2.この少年に適応のあった他の術式は?

・D.機械弁(SJMなど)による弁置換
・E.ステントレス生体弁(Freestyleなど)による弁置換
・F.ホモグラフトによる弁置換
・G.心尖部から導管を建て、その先を弁置換

などが挙げられる。

それぞれ
・D.「もっとも簡単で丈夫」だが「一生ワーファリンが必須(女性の場合は妊娠が困難になる)」
・E.「Dよりやや煩雑だが耐久性がやや劣る」だが「ワーファリン不要」
・F.「手術難度としてはEレベル」だが「わが国ではホモグラフト弁の入手が困難」
・G.「きわめてまれにしか行われない」(私自身は直接みたことはありません、狭小弁輪などで行われるらしい)


3.あなたな~らどうする~♪
というわけで、(後だしじゃんけんなのは承知だが)、どうすればこの悲劇が回避できたのだろうか

ロス手術の利点は、前述のとおり「弁が成長する」「ワーファリン不要(=妊娠可能)」なので、小児や若い女性に行われることが多い。今回の報道で(心臓外科)業界関係者の多くが首をかしげたのが、「19才の少年」だったことである。身長や心臓サイズはほぼ成長が終了しているだろうし、妊娠の可能性はない。術式の選択としてもDEFあたりの説明をした上で、「ロス手術という選択肢もあるが危険性も高い」と説明するのがフェアなやり方だと思う。(あるいは、水戸市という土地柄か「納豆のない人生などありえない」と思ったのか・・・?)

うちのICUで、「私(=30代既婚未出産)がARになったら、ホモグラフトかフリースタイルだな。外科医がだれでもロスは怖いよ。出産はワーファリンをヘパリンに切り替えて体外受精かな。」と言うと、某心臓外科医が「そんなのは機械弁に決まってるじゃないか。手術中に予期せぬ出血があったとかいって、術式を変更すればいい。安全性が高く、麻酔科医が産休をとる心配がなくなるなんて、うちの医局にとっては最適の術式だ」

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