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2007年7月

2007年7月 6日 (金)

LVAS装着術の麻酔

先ほど、携帯に旧知(窮地?)の麻酔科医A氏より電話があった。

「明日の7:30から、DCM(拡張性心筋症)の患者にLVAS(補助人工心臓)を装着することになったんだけど、うちの病院の麻酔科医はだれもLVASなんて見たことないんです・・(中略)・・どうやって麻酔すればいいんですかねえ?」

簡単に電話でLVAS装着術の要点を説明したのち、「ほかに準備するものはないですかねえ?」と言ってるので、「じゃあ、明日7:30までに要点をブログに載せとくから、今日は早く寝て鋭気を養っときなさい。」と答えた。でもって、この章を書いている。


1.手術室入室の前に ・・・身軽がトラプルを防ぐ・・・

LVAS装着術の対象は「LVASを装着しなければ、明日の命も保障できない、超重症心不全」である。術前の段階で、ICUに入室し、すでに挿管、Aライン、CVP、Swan-Ganzのフルコースが終了しており、さらには両方の大腿からIABPやPCPSが装着されていることが多い。さらには、各種薬物のシリンジポンプがクリスマスツリーのごとく並んでいるので、気の弱い麻酔科医ならば、見ただけで逃げ出したくなるような状態であることが多い。

ここであせってはいけない。シリンジポンプの内容をよく吟味してみよう。カリウム、抗生剤、インスリンといった、「当面の支障のない薬品は可能な限り中断」するのが望ましい。「ヘパリンは入室時に中止」する予定ならば、病棟を出る段階で中止にしてポンプははずしておく。点滴ライン類も、「とりあえず生食でキープ中」のものは、ヘパリン生食でロックしておき、スパゲティ状態の改善に努めるべきである。整理すれば、手術室入室前に、点滴やシリンジポンプの数は、半分以下に減らせることが多い。また、このライン整理は、主麻酔科医が中心に行うのが望ましい。整理しながら、どのラインがどこに入っているかを把握することができるからである。抗生剤はICUを出る前に終了するか、手術室入室後に落ち着いてから開始すべきである。

こういう超重症例では、カテコラミンの三活トラブルだけで、あっという間にGame Overになりうる。患者移動や入室の前後は、多数の人間が関与するし、その中には超重症例の扱いに慣れていない人間も含まれる。トラブルを防ぐ方法として、管理するラインや薬品の数を、あらかじめ減らしておくことをお勧めする。

また、IABPの同期がECGに依存している場合、新人看護師などが気軽に電極をはがそうとするのをしばしば目撃するが、けっしてはがされないよう目を光らせなければならない。


2.人工心肺までにすべきこと

PCPSが装着されている場合の麻酔導入は、一般的な心臓外科手術よりもずっと簡単だと思う。麻酔薬の影響で患者の心機能や低下しても、機械が助けてくれるからである。末梢血管の拡張によって、急激な血圧下降が見られる場合もあるが、大抵はネオシネジンやノルアドレナリンなどで、SVRを上げれば回復する。「早期抜管」など誰も要求しないので、心ゆくまで大量の麻薬や筋弛緩薬を使おう。

忘れてならないのは、TEEによるPFOの確認である。PFOは開いたままだとLVAS循環が成立しない。一見シャントがなさそうに見えても、バルサルバ動作や発泡コントラスト剤(アルブミンを少量加えた生食を泡立てても代用できる)で、念入りに確認すべきである。


3.人工心肺離脱

LVASとはLVを補助する装置であり、一方DCMはLV・RV両方とも心機能が低下している。よって、LVASが付いて改善するのは左心機能だけなのである。よって、人工心肺離脱時の最大のポイントは、

「具合の悪いRV」をいかに動かして「LVASが付いて元気になったLV」に適応させるか

である。

エピネフリンはほぼ必須であり、0.5γ以上で投与する場合もよくある。心収縮力を高め、後負荷(=肺血管抵抗)を下げるために、オルプリノン(かミルリノン)も必須であり、私はしばしば0.3-0.5γ使用している。NOガスは呼吸開始時から、最大濃度で投与しておく。DOA/DOBも10γで開始しておく。その他、NTG、hANP、シグマートなどは、担当医の好みで使用すればいいと思うが、この場合の主役ではない。気管内はマメに吸引し(出血しない程度にだが)「肺を軽く」することを心がけたい。

どうしてもRVが動かずPAが上昇する一方の場合は、「RVASも装着してBiVASにする」という方法もあるが、「BiVASの付いた患者は90%助からない」という事実も念頭におき、「なんとしてでもLVASだけで乗り切る」という強い意気込みでがんばって欲しい。


4.人工心肺離脱後 ・・・adequateで妥協せず、optimal volumeを探せ

LVASを効率よく運用するためには、心腔内がペッタンコにならず、RVに負担をかけない、その心臓にとってoptimal(=最適)な循環血液量を探しだし、維持につとめる必要がある。PA圧÷血圧<0.3程度で管理できれば理想的だが、しばしば0.5程度で妥協せざるを得ない。TEEの使い手ならば、血圧が80台を維持させつつTRが最小になるようなバランスのvolume管理を心がけたい。

しばしば、大量のMAP/FFP/Pltが必要になり、CVPは10台後半はザラ、時には30を超えることもあるが、ひるまずポンピングを続け、体循環を維持しなければならない。

「左心系と右心系を独立して管理」「肺を軽くする」「大量輸血で血圧を維持」・・・・
ここらへんのポイントは、小児循環器外科症例、とりわけFontan循環の管理にかなり似ていると思う。よって、LVASの麻酔管理は、「off-pump-CABG中心の心臓麻酔科医」よりも「小児循環器の得意な麻酔科医」のほうが、習得しやすい技術ではないかと考えている。

それでは、A先生と同僚のみなさん、Good Luck!

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