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2008年9月21日 (日)

心疾患合併非心臓手術におけるTEE(学会おまけ)

おかげさまで、学会の教育講演は無事に終了しました。台風もどこかへ去ったようだし。
何が大変って、副都心線の渋谷駅のホームから地上に出るのに10分以上かかってしまい、学会場にたどり着けないんじゃないかとパニックになりそうでした。
でもって、時間の関係であまり説明できなかった事項を補足しておきます。

症例は、
「狭心症の既往がありステント留置後の低位前方切除術」であったが、
「周術期のモニターとしてのTEE」について追加説明しておきます。


1.EF:カテコラミン使用の指標

左室駆出率を測定することで、「カテコラミンを使用するか否か」「カテコラミン量の調節」「カテコラミンが多すぎて心臓が無駄に仕事をさせられている」を判断することができます。EFの測定方法としては、壁運動異常がある場合にはM-modeでは誤差が大きいので、少なくともArea法、できればSimpson法での測定が望ましいです。

心疾患合併症例の術前カンファで最も話題になりやすい計測値がEFですが、EFとは通常LVEFの略であり、心臓の4つの部屋のうちのLV(もっとも大切な部屋ですが)の収縮能の指標でしかありません。EFは心機能の全てを代表する値ではありませんし「非発作時には心エコー上異常のない狭心症患者」というのはゴロゴロいます。「EF70%」と言われても安全が保証される訳ではありませんし、「EF35%」でもLAD梗塞後の心臓をM-modeで測定した値だったら、さほど騒ぐ必要はないのかもしれません。


2.LVDd/LVEDV:Volume管理の指標

 LVの直径や容積、そしてその推移を測定することで、Volume管理の指標とすることができます。「CVPの値を参考にVolume管理を行う」に近い感覚です。

3.DT、E/A ratio:NTG、ニコランジルの指標

 左室拡張能を数値化することによって、NTG、ニコランジルの有効性を確認することができます。NTGやニコランジル投与を開始すると、トゲトゲしかったE/A波がなだらかになるのを見ると、ちょっとうれしくなります。


4.LAAの血栓・モヤモヤエコーの描出

 心疾患合併症例では、周術期の抗凝固薬の管理は麻酔科医の悩みのタネであります。あんまり出くわしたくないシチュエーションですが、術前に抗凝固療法を中断・変更した症例では、左室(とくに左心耳)に血栓がみつかることがあります。左心耳は血栓の好発部位ですが、経胸壁エコーでは観察がむづかしく、「TEEを入れてびっくり!」ということがたまにあります。


5.肺塞栓:右心系拡大+TR

 これもあまり出くわしたくないシチュエーションですが、術中の肺塞栓が即時に診断できます。血栓が直接エコーで見れる場合もありますが(この場合の致死率は高い!)、血栓が小さくても二次的な右心負荷(=RA,RVの拡大およびTR)によって、診断することが可能です。


6.TEE初心者のトレーニング

 TEEといえば「心臓麻酔のおまけ」と考えられやすいのですが、心臓麻酔初心者は麻酔そのもので手が一杯になりやすく、TEEを操作する余裕がないことが多いです。こういった、心疾患合併非心臓手術で積極的にTEEを使用し、麻酔の合間に操作の練習をすることは、麻酔科医にとっても有意義なことだと思います。


7.臨床研究テーマとして(追加)

 欧米に比べて日本の病院が集約化されていないことは広く知られています。「開心術が年2~3000件(もしくは0件)」というのは欧米では当たり前のことですが、わが国では「年50~200件が乱立」しています。よって、心臓麻酔の臨床研究をデザインしようにも、統計的な有為差が出るだけのデータを集めることは困難です。
 だからといって、「日本ではTEEを使った臨床研究はできない」と決め付けるのは早計です。欧米では、麻酔科サブスペシャリティの分化が進み、「心臓麻酔部門」と「ペイン部門」だとあたかも別の科ぐらい交流がない場合が多いのです。一方、わが国の麻酔科医はいまだに「何でも屋」であることが要求されます。ゆえに「硬膜外麻酔がLV拡張能を改善するか?」といったサブスペシャリティを超えた研究の立案・実行は、我が国の麻酔科医のほうが有利だと私は思います。
 「ウチの病院じゃ、開心術は週1回しかないから、マトモな研究はムリだ」と考える医師よりも「ウチの病院じゃ、週4日はTEEが自由に使えるから、なんか研究してみよう」と考える医師に、研究の女神は微笑んでくれるのではないでしょうか。

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コメント

疑問です."女医の仕事&家庭の両立日記さん"でよろしいですか?
ニコランジルの使用で拡張能の改善が得られ,満面の笑みを浮かべているとのこと,どのようなメカニズムに」よるのでしょうか?
私にはわかりません.ぜひご教授下さい.
私の知る限り,ニトログリセリンと比較して前負荷の軽減作用は少ないように報告されています.(これもあなたのEBM好みですね)
ぜひご教授下さい.眠れません.
というか,このブログ,ウザい.

投稿: ウッチャンハンチャン | 2008年9月23日 (火) 11時59分

ウザいとは失礼だと思いますが、
確かにちょっと傲慢かなーというか、ここまで自画自賛のブログって・・・とは感じましたけど。
弟子募集のコメント入れてる人にも全然返してないし。
LVAS麻酔ができますっていっても、それは麻酔科医自体の優劣で出来た出来ないというよりは、
たまたま同じ病院に勤めている外科医の能力次第でしょ。
S医大なら単にその時期にK先生がいたっていう、めぐり合わせの問題と言ってもいいかも。
女性の役職といっても、はっきりいってS医大じゃあねぇ・・・。
まぁ、でも読み物としては、楽しく読ませていただいています。

投稿: A | 2008年9月29日 (月) 23時45分

 ブログなんだから好きに書けばよいのでは?
ウザければ見なければ良いだけですよ。
傲慢な性格なのは同感ですがね…

投稿: フリー麻酔科医師 | 2008年9月30日 (火) 15時03分

フリー麻酔科医師 さん,おっしゃる通り.ウザいから見ないように心掛けているのですが・・・いけないと思いつつ本日も書き込んでしまいました.
実は私,このブログのオーガナイザーと,とある関西の病院でご一緒させていただいていたのです.
ご立派になられました.

恋愛相談は,フィクションとして楽しんでいます.
究極のエンターテイナーですね.
芥川賞に推薦いたします.

投稿: ウッチャンハンチャン | 2008年10月 2日 (木) 10時00分

↑↑↑
正体バレてるぞ、おまえ

投稿: とおりすがり | 2008年10月 5日 (日) 22時33分

 はじめまして。いつも楽しく読ませていただいています!

 突然で申し訳ないのですが、TEEのことで質問があります・・・TMDFにおいて、restrictive patternの際にIVRTもDTも短くなり、E-waveもsteepになり・・・・A-waveも延びない。
みんな短くなってばかりですが、ではいったいどこが延びるのですか?もしかして、1サイクル自体にかかる時間が正常と比して短くなる??(HRが上昇する??)からどこも延びないのですか?
DTもE-waveも短くなるので、IVRTは延びるのではないかと思い問題を解き始めましたが、どうやら違うようです。
なんだか頭が混乱してきました。どうか教えてください!
 また、JB-POTおよびNBEを受験するに当たっていい問題集はありませんか?A Practical Approachto TEE(第2版)とClinical Manual and Review of Transesophageal Echocardiographyは持っています。日本語の問題集などがあればいいのですが、なかなか見つからないですね。JB-POTもNBEも傾向と対策は違うと思いますが・・・両者にお薦めの問題集があったら教えてください。

投稿: 悩める受験生 | 2009年7月20日 (月) 14時44分

アーチファクトに関することの質問があります。
ご教授お願いいたします。

1.断層像法におけるアーチファクト・ミラーリング
2.スペクトルドプラにおけるアーチファクト・ミラー効果
3.カラードプラ法におけるアーチファクト・ミラーイメージ
と、JB-POTの講習会テキストにはあるのですが・・・。
渡橋先生の「経食道心エコー法・マニュアル」P.120を見ると、カラードプラでのmirroringとあります。

いまひとつ、それぞれの違いがすっきりしません。お時間ありますときに、是非詳しい解説をしていただけたらと思いますお願いいたします。

投稿: アーチファクト | 2009年7月21日 (火) 17時48分

7/20に質問させていただいた者です。おそらく、解決しました。いろいろ勘違いをしていたようで、ひとつひとつのパラメータの意味するものを再考したら理解できたような気がします。お騒がせ致しました・・・happy01 

投稿: 悩める受験生 | 2009年7月27日 (月) 18時24分

clonidine先生、至急2ちゃんねるを確認したほうがよいですよ。
ウッチャンハンチャンらしき人が暴れてます。

>正体バレてるぞ、おまえ
ウッチャンハンチャンって、K大のO先生?

投稿: 2ちゃんが大変 | 2009年9月24日 (木) 23時48分

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