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2009年9月11日 (金)

JB-POT 直前講座 2009-4 心臓移植の麻酔

ブログ主が担当したことのある心臓移植は3症例である。しかし、これでも日本国内では「経験豊富」に属するらしいので、一応その要点を記しておく。


1.アメリカのマニュアルを鵜呑みにしてはいけない

「心移植の麻酔」を担当する麻酔科医は、外国(多くは米国有名病院)の文献を取り寄せて勉強しているのではないかと思うが、そういう努力は無駄とはいわないが,医療事情の違いを理解せずにマネすることは大変危険である。我が国での心臓移植チームは、北米にくらべてかなり劣悪な条件で闘わなくてはならない。


2.2ヶ月待ちの米国、2年待ちの日本

米国では年間2000例の脳死心臓移植が施行されているが、日本では年10例未満である。この差は、「アメリカ人は日本人よりボランティア精神が深い」と言うよりは、米国の「医療費のとんでもない高騰化」「米国の民間保険会社は終末医療打切が早い」「移植に同意するとドナーの終末期医療費をレシピエント側が払ってくれる」あたりが原因と思われるが、長くなるのでここでは触れない。

「心臓移植を希望する患者がレシピエント登録を開始~実際に心臓移植ができるまでの期間」を待機日数というが、大雑把に言って米国では2ヶ月、日本では2年である。よって米国では「心筋梗塞後の心不全」程度でも、(金さえ積めば)病態が悪化する前に移植医療を受けられる。一方、日本の移植希望患者が実際に手術を受ける頃には、何度も心臓手術を受けて補助心臓を装着された状態であることが多い。対象患者のほとんどは心筋症の成れの果て、自己心機能は絶望的に低い(EFが測定できない、など)ことが多い。

よって、米国では(初開胸の)心臓移植は心臓外科レジデントが執刀することが多いが、日本では開胸だけで一苦労、その後もひたすら癒着との戦いとなり、ベテラン外科医による剥離ワザが必要になる。ワーファリンなど抗凝固薬がしっかり効いた状態で手術にのぞまねばならない場合もあり、麻酔科医はそれなりの覚悟で輸血一式の準備をしなければならない。


3.Marginal heart(イマイチのドナー心)

上記のように、日本ではまだまだ圧倒的なドナー不足なので、Marginal heart(要するに、イマイチのドナー心)による移植で妥協しなければならない場合がある。理論的には「体表面積1.8m2でCardiac Index2.0の低拍出ぎみの心臓を、体表面積1.2m2の患者に移植すればCardiac Indexは3.0で正常心となる」ということだが、そうは問屋がおろさない。

心臓移植の麻酔の難易度は、結局のところ入手した「ドナー心の心機能」に大きく左右される。「健康な20代のフレッシュな心臓を、阻血時間2時間以内で輸送」といったケースならば、移植された心臓は最低限のカテコラミンだけで勝手に動き出す。一方で、ドナー患者の受傷状態や臓器搬送などで、ドナー心が傷んでしまった場合は、手術中も術後管理も苦しい闘いを強いられる。


4.人員整理におおわらわ

日本ではまだまだこの手術は一般的ではなく、大イベントになってしまうことが多い。心臓外科スタッフが総動員されるだけにとどまらず、複数の大学や循環器センターからのエラいベテラン外科医が集まって、患者頭側の麻酔科スペースに陣取ってみんな口々に好き勝手なことを、麻酔管理上の助言をいただけることが多い。

カテコラミンの量ひとつとっても「5ガンマ」だの「1000分の50」だの「50ミリリットルに150ミリグラム換算で6速」などなど、質問主を確認しつつ相手に理解しやすい用語で返答しなければならず、「ティッシュあげてくれへん?」「テーブルダウン」といった注文にも手術の進行状況と発言者のバックグラウンドから瞬時にどちらの意見を採用するか判断するという、高度に政治的なテクニックも必要となる・・・ちょっと目を離すとTEEのキーボードを誰かが肘で突いて設定が変わったり・・・カテコラミンのラインと三方活栓が知らない間に外れたり・・・油断もすきもありゃしない・・・
とりわけ「精神科医の院長」とか「糖尿内科の学長」などが手術室に入りたがることもあるが、「感染防止」などを口実に手術室入室を阻止したい。ここらへんは麻酔科教授の腕のみせどころだと思う。


5.移植はいつだって緊急手術

当然のことながら、脳死心臓移植は緊急手術である。「ドナー心の阻血時間を最短にする」ことを第一に手術スケジュールを決めるために「AM1:00入室」といったキツイ時間帯になることがまあまあある。また、幸いにAM10:00入室のように比較的マトモな時間帯となったとしても、他の手術をいくつかキャンセルすることになり、移植の翌日などに追加症例となることが多い。

移植手術が終了すればお祭り騒ぎは一段落するが、現実の手術部運営では「延期症例のマネージメント」や「徹夜で働いたスタッフを十分休ませる」ことが終了してこそ「心臓移植が終了」と言えるのではないかと思う。

ちなみに、私の経験した3例では3例とも翌日は通常勤務であった。


6.試験のポイント

「こんなの試験に出ないんじゃ?」と思った皆さん、そのとおり!

心臓移植関係で出題されるとすればDenervation(除神経)あたりだろうか。ドナー心を摘出する際に、ドナー固有の心臓周囲の神経は除去される。よって移植直後は、ドナー心とレシピエント患者の神経の連絡はなく、アトロピンは無効である(心拍数を上げたいときは、イソプロテレノールかペースメーカーを使用)。

また、心移植後の心電図ではP波が2つ(患者固有のものとドナー心由来のもの)みられることがあるので、このあたりが出しやすいかも。画像問題では画像だけでなくその下に表示されるECGを読み込むのもお忘れなく。

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