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2010年10月10日 (日)

0ff Pump CABG の麻酔(JB-POT直前講座2010-1)

なんだかんだ言っても、我が国における開心術症例数の約半数はCABGであり、現在その過半数はOff Pump CABGではないかと推測されるが、その割には自信をもって研修医にすすめられる「Off Pump CABGの麻酔」の教科書などは少ない。

その理由としては、

1.心臓麻酔の教科書としては今なお北米の有名病院の出版物が幅を利かせているが、北米では(心臓外科医にもよるが)必ずしも「Off Pump CABGはOn Pump CABGより秀でた術式」と認識されていないせいか、CABGにおけるOff Pump CABGの割合は日本ほど高くない→麻酔のノウハウが蓄積されず成書となったものが少ない。

2.我が国では、Off Pump CABGの割合は高いが、いかんせん「実際に麻酔をかける人」と「学会で講義したり教科書を書く人」が同一でないことが多い。よって、「実際に麻酔をかける人」からみると「学会の講義や教科書の記述」が、「学問としての麻酔科学」としてはともかく「商売としての麻酔」としてはズレていることがよくある。


という訳で、両者のズレを埋めるべく、記事をまとめてみたいと思う。例によって、「個人的思い込み>文献的エビデンス」の文章なので、本記事を参考に麻酔をかける場合は自己責任でお願いしたい。

A.グラフトの種類と注意点

CABGに使用される血管グラフトは動脈グラフトと静脈グラフトに大別され、前者ではとりわけITA(内胸動脈)、RA(橈骨動脈)など血管の両端を切断するfreeグラフト、GEA(胃大網動脈)が、代表例として挙げられる。

a.静脈グラフト
長所は血管のスパズムが起こりにくいこと&長いグラフトが採取できること、短所はグラフトが詰まりやすく5年程度しか血流が保てないとされている。CABGの歴史の中で毀誉豹変にさらされてきたが、なんだかんだ言って今なおベストセラー&ロングセラーのグラフトである。
 麻酔科医にとっては吻合直後からの心筋への血流が期待できてスパズムの心配をしなくてよいのは助かるが、それゆえにしばしば緊急手術で使用され、かならずしも麻酔管理が楽勝とは言いがたい。

b.ITA(内胸動脈)
動脈グラフトゆえにスパズムのリスクはあるが、吻合箇所が一ヶ所なので後述するfree動脈グラフトよりはスパズムは起こりにくい。長さに制限があるため、吻合部位に制限がある(特に右ITA)。ニコランジルやNTGなどのスパズム予防策が必要だし、吻合直後は十分な血流が得られず心機能も期待したほど回復しないことがまあまあある。たまに、スパズム予防と称して(麻酔科医に無断で)ミルリノンやオルプリノンをワンショットする外科医がおり、突然に心拍数や心拍出量が増加することで推察することができるので「何か(薬品を)入れましたか?」などとすかさず答えてクギをさしておこう。
 ITAの採取にあたって人工呼吸に伴う肺の動きが外科医の操作とぶつかることがあり、一回換気量などに細かく注文をつける外科医がいるが、可能な限り応じてあげよう。

c.(橈骨動脈)RAなどfreeの動脈グラフト
吻合箇所が2ヶ所の動脈グラフトなので、スパズムが起こりやすい。対策は前述。

d.GEA(胃大網動脈)
テレビドラマにもなった「外科医 須磨久善」に登場することでも知られる。腹腔内の動脈を胸部に持ってきて吻合するので、私が研修医の頃には「10年以上開存してITAの届かない部位に吻合できる画期的なグラフト」と注目されていたが、GEA採取後の胃がん発症リスクや「意外と詰まりやすい?」との報告もあり、現在ではさほどもてはやされていない。
 麻酔科医の仕事としては、外科医がGEA採取にかかる前に胃管を挿入して空気を抜いておく必要があるが、胃管はTEE操作にともなって抜けやすいので注意が必要である。また、「開胸+開腹」となるので、手術直後は一般的な開心術の麻酔に比べて腸間膜など「いわゆるサードスペースへの水の移行」を念頭において輸液を計算する必要がある。上腹部の開腹となるため、術後疼痛も従来の開胸のみのCABGよりは強くなりがちで、スパズムを誘発しないためにも、持続モルヒネ注などの術後疼痛対策が望ましい。


B.吻合部位による注意点
Off Pump CABGは、どこを吻合しているかによって、起こりやすい合併症が異なる。麻酔中は現在どの血管を吻合しているかを念頭におきつつ、術野+モニターを監視したい。

a.LAD領域
もっとも合併症が少ない領域である。心臓を脱転する必要もあまりないのでTEEも活用できる。血行動態が安定するので、しばしば若手外科医が担当することがあり、予想外に時間がかかることもたまにある。

b.RCA
不整脈の管理に苦慮することが多い。術野から一時的ペーシングのリードを出してもらい、外科医にリードの先端を直接心筋に装着してもらうと有用である。また、ペーシングポート付きのSwan-Ganzカテーテルも有用である。

c.Cx
心臓の脱転による血行動態の急変がおこりやすい。また、脱転中は心室と食道の接触が悪くなり、「一番心臓の内部をみたい時に良好なTEEの画像が得られない」というジレンマがある。スタビライザーの当て方によっては、たまにPFOが開いて血行動態が変化することもあるが、スタビライザーの当て直しで解決することが多い。この場合にはSvO2の値なども参考になる。

d.99%狭窄は100%よりハイリスク
吻合部位の「99%狭窄」は「100%」より管理が難しい。100%(=閉塞)ならば、吻合中にこれ以上血流が低下することはなく、その先の心筋への影響を心配する必要はないが、99%狭窄部位においては1%分の血流がその先の心筋細胞をギリギリで養っていることがあり、このような部位での吻合中の血流途絶は想定外の血行動態悪化をまねくことがある。


C.早期抜管?
off pump CABGの麻酔と言えば、手術室での抜管やら、ラリンゲアルマスク、さらには覚醒下手術など、一時期は早期抜管がもてはやされる傾向にあった。私個人は「LITA-LADを中心とした1~2枝バイパス」など、条件の整った症例でしか手術室抜管は行っていないし、覚醒下手術の経験はない。
 GEAやfree RA症例など、術後疼痛やスパズムのリスクの高い症例では、一晩ICUでたっぷりの麻薬やら鎮静&鎮痛剤を使用し、血行動態の安定した翌朝以降に抜管に持っていくことが、患者のみならずICUスタッフやら当直医のメリットは大きいと考えている。


D.試験対策
とりあえず、「心臓を脱転させると心室が描出できなくなる」「スタビライザー圧迫によってPFOが開くことがある」あたりが出題されやすいのではないかと思う。


産後の体力低下+原因不明のジンマシン+慣れない育児でバテバテの日々である。ショボくて申し訳ありませんが、本年度の直前講座はこれにて終了とさせていただきます。

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