限界医局その後
限界医局に登場したC先生とF先生は、無事に転職を完了したそうである。
彼等の前途に幸多かれと祈りつつ・・・
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その日の担当は待機的なoff pump CABGであった。心機能も比較的良好で心臓麻酔としての難易度は特に高いものではないが、最大の問題は体重140Kg(身長170cm)であった。
挿管はクリアできた。Aラインは触れやすく、難なく確保できた。続いてCVおよびSGカテーテルを挿入すべく、大量の肩枕を入れて、猪首を伸展させるようにガムテープで額を手術台に固定した。
いざ刺そう!と構えていると
「オレがやる!」とIIIa部長が登場した。
「え~」と私は一応抵抗するが
「なんかあったら責任問題になるからオレがやる!」とIIIa部長は主張、目がマジである。
手術室の空気を読むのもフリーランスの任務、無駄な抵抗は止めて部長へ場所を譲る。
140KgということでIIIa部長にしては手間取ったが数度の穿刺で難なくガイドワイヤーは挿入され、カテーテルは合併症もなく留置された。
「SGカテーテル留置患者の体重上限記録が更新できたぞ!ハッハッハ、後はやっといてくれ」上機嫌でIIIa部長は去って行った。
「責任うんぬん」というより、要は自分でやりたかったようだ。
私はなんだかイチゴだけ食べられた後のショートケーキをもらった気分であった。
と同時に、いかにしてアラカン(=around還暦)麻酔科医が現役生命を延長するために努力(というか本能的習性)しているかを知った。
オリンピックシーズンである。プルシェンコ選手の銀メダル演技などを観るにつけ
「私もいつまで、現役第一線で重症やら緊急症例に対応できるだろう」とぼんやりと考えている。
「せいぜい後7~8年ぐらいかなあ」と弱気になるときもあるが、
「IIIa部長ぐらいの勢いで若いモンの症例を取り上げていれば、もっと延長できるかも」とも考えている。
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フリーランスになってよかったことの一つは、(非医学書の)読書時間が増えたことである。バッグに文庫本を忍ばせて、電車での移動時間や仕事の待機時間中に読むのは、息抜きと同時に次の仕事のヒントにもなっている。
人気骨董鑑定士の中島誠之介著:「骨董掘り出し人生」で見つけた言葉に「捨て目を利かせる」というのがある。骨董の目利き修行の一つに、「視野に入ったものをちゃんと目でひろっておく」=「捨て目を利かせる」があるのだそうだ。著者は長年の修行の結果「電車に乗って漠然と車窓を眺めていても、骨董に関係あるフレーズや店舗が視野に入ると、勝手に脳が反応してしまう」そうである。
先日、私が六本木ヒルズへ出かけた時のことだった。約束までしばらく時間があったので、ウインドーショッピングを楽しんでいた。その日は、エストネーションという高級ブティックに足が向いた。普段はユニクロやら無印良品を愛用する私にとって、敷居の高い店なのだが、何故だか入ってしまった。そして、ディスプレイされていたドレスは「Vena Cava」というブランドのものであった。
どうやら、視野に入った情報を無意識のうちに脳がピックアップして、足が反射的に動いたらしい。
P.S.
非医療関係者のための解説:医学用語でVena Cavaとは心臓に流入する大静脈の総称
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この記事は、ミステリーの結末を知りたくない方は読まないでください。
「チーム・バチスタの栄光」というミステリー小説がある。昨年映画化され、現在ではテレビドラマ放映中である。一昔前の医療ドラマの「外科医のみがひたすらかっこいい」ストーリーではなく、心臓手術を題材に麻酔科医・病理医・臨床工学士・器械出しナースなどのメンバーが重要な役割を持って登場する。
原作小説中の犯人は麻酔科医だった。麻酔科医は病院内での麻酔科医の扱いに不満を蓄積させていた。麻酔科医は硬膜外カテーテルを背中から脳に挿入し、手術中にこっそり薬液を注入した。患者の脳細胞はダメージを受け、手術中に心停止させた心臓は人工心肺離脱後も再鼓動しなかった・・・
しかし、ほとんどの麻酔科医は「この方法は使えない」と気付いたであろう。というのも
1.硬膜外カテーテルは首より上まで到達させるには短すぎる。
2.さらに柔らかく、思った方向に直進しにくい。
3.硬膜外腔は脳幹部と連続しておらず、首より上に挿入するには硬膜を破らなければならない。
4.そもそも、心臓手術では原則として硬膜外カテーテルは使用しない。
さらに、
5.仮に、脳細胞がダメージを受けても、しばらく心臓は拍動する(脳死でも心拍はしばらく持続するようなものである)。ゆえに、このケースでは人工心肺離脱後に再鼓動する(が、ICUでいつまでたっても患者の意識が戻らないことで異常に気付くはず)。
6.仮に、再鼓動しなくても、その場合は再び人工心肺に戻れば、大騒ぎする必要はない。PCPSを装着すればICUに帰室できる程度の時間は稼げるので、手術室内で死亡することは、まずありえない。
今回のテレビドラマ編では、「原作とは犯人が違うらしい・・・」とのことだったが、11月18日放映分では、麻酔科医が犯人だった。しかし、1~4の疑問はクリアされていた。麻酔科医は硬膜外カテーテルではなく、肺動脈カテーテルを使用していた。肺動脈カテーテルならば、ほとんどの成人心臓麻酔で使用されているので、バチスタ手術で麻酔科医が使用しても不自然ではない。また、肺動脈カテーテルを右房・右室に挿入するのは通常の使用法なので、周囲も疑問には思わないだろう。
犯人は、肺動脈カテーテルに強い電流を流して、右房・右室にダメージを与えたため、心臓は二度と動かなくなった・・・とのことで、多くの麻酔科医は「これだったらできるかも」と思ったかもしれない。
しかし、私は「やっぱり、この方法は使えない」と思う。というのも
7.心臓手術中は(というか、ほとんどの手術中は)心電図がモニターされているので、心臓を破壊するような高圧電流が流れたら記録に残ってしまう。
8.バチスタ手術は拡張性心筋症に対する手術である。そして、拡張性心筋症の右房・右室の内腔は拡張しているので、カテーテルと心筋壁が接触しにくい(ゆえに、肺動脈カテーテルにはペーシング機能のついたものもあるが、心不全で拡張した心臓ではペーシングが脱落しやすいというジレンマがある)。ゆえに、電流を流しても一撃必殺とはいかないであろう。何度も繰り返すと、壁の薄い肺動脈部分が先に損傷してしまい、「何か変だぞ」と心臓外科医にばれてしまいかねない。
じゃあ、どうすればいいのかというと
9.肺動脈カテーテルはしばしば、逆行性心筋保護液注入ラインの圧モニターのために、その側管と接続されることがある。このラインを使用するのである。たとえば、このラインから蒸留水を注入すれば、外科医に気付かれずに冠静脈洞から静脈を通じて電解質差によって心筋にダメージを与えることができる(心筋保護液と水を間違えた医療事故の報告もある)。水ならば簡単に入手できるし、警察の鑑識調査でも検出されることはないはずである。
ただし、よい麻酔科医のみなさんは、けして真似しないでください。
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今週はアナフィラキシーショックに二度も出くわしてしまった。
症例1.
50代男性の開心術、アレルギー関連の既往はなかった。体外循環離脱後、MAP+FFPを急速輸血している最中に、血圧があっというまに40~50台に急降下。、「輸血のどれかに当たったな!」と推測した。顔面や術野の紅潮はなかったが、TEEが入っており、Swan-Ganzカテーテルも入っていたので、血圧低下の原因としての心不全は即座に否定できた。TEEではLVが小さめでよく動いており、胸腔内の液体貯留もみとめなかった(=胸腔内出血なしと判断)。診断的治療ということでヒスタミンブロッカー+ステロイド+エピネフリンを投与したらまもなく血圧は回復。手術終了後に覆布を取ると、皮膚にはホルスタインのような赤い模様ができていた。
症例2.
40代女性のラパコレ、既往歴なし。麻酔導入も手術も順調で、手術は終盤を迎え、腹腔鏡を抜いたあたりから突然の頻脈+大量の水様痰+気管付近から雑音。顔面がジャガイモのように赤黒くゴツゴツはれ上がる。とりあえずステロイド点滴で様子を見ていたら、気管の雑音が消失したので、抜管する。麻酔覚醒後、本人は呼吸困難も掻痒も訴えなかったので、帰室となった。迎えに来た病棟看護師が、「顔の形が違う!」とびっくりする。私が夕方、病棟に診察に行くと、別人のようなゆで卵風あっさり系小顔になっていたので、今度はこっちがびっくりする。
症例1.は輸血が原因と推察できるが、症例2.は原因が未だわからない。原因物質が抗生剤・ラテックス・消毒液だったら手術開始早々に発症しそうなものなのに・・・。しいていえば、終了間際に投与したロピオン(シップ薬等に使用されるケトプロフェンと交叉アレルギーをおこしたとの報告あり)ぐらいか・・・?
とりあえず、「二度あることは三度ある」とならぬよう、なんとなく用心している最中である。
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きたる9月20日、第48回日本麻酔科学会 関東甲信越・東京部会の
『教育講演Q&Aセッション』にコメンテーターとして出演します。
内容は、「非心臓手術における心疾患への対応」になる予定です。
ご興味のある方は、渋谷セルリアンタワーホテル第2会場(宙)へ13:30~15:30おいでください。
(台風に直撃されそうなのが、とっても心配・・・)
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