2008年11月 9日 (日)

アナフィラキシー2連発

今週はアナフィラキシーショックに二度も出くわしてしまった。


症例1.

50代男性の開心術、アレルギー関連の既往はなかった。体外循環離脱後、MAP+FFPを急速輸血している最中に、血圧があっというまに40~50台に急降下。、「輸血のどれかに当たったな!」と推測した。顔面や術野の紅潮はなかったが、TEEが入っており、Swan-Ganzカテーテルも入っていたので、血圧低下の原因としての心不全は即座に否定できた。TEEではLVが小さめでよく動いており、胸腔内の液体貯留もみとめなかった(=胸腔内出血なしと判断)。診断的治療ということでヒスタミンブロッカー+ステロイド+エピネフリンを投与したらまもなく血圧は回復。手術終了後に覆布を取ると、皮膚にはホルスタインのような赤い模様ができていた。


症例2.

40代女性のラパコレ、既往歴なし。麻酔導入も手術も順調で、手術は終盤を迎え、腹腔鏡を抜いたあたりから突然の頻脈+大量の水様痰+気管付近から雑音。顔面がジャガイモのように赤黒くゴツゴツはれ上がる。とりあえずステロイド点滴で様子を見ていたら、気管の雑音が消失したので、抜管する。麻酔覚醒後、本人は呼吸困難も掻痒も訴えなかったので、帰室となった。迎えに来た病棟看護師が、「顔の形が違う!」とびっくりする。私が夕方、病棟に診察に行くと、別人のようなゆで卵風あっさり系小顔になっていたので、今度はこっちがびっくりする。


症例1.は輸血が原因と推察できるが、症例2.は原因が未だわからない。原因物質が抗生剤・ラテックス・消毒液だったら手術開始早々に発症しそうなものなのに・・・。しいていえば、終了間際に投与したロピオン(シップ薬等に使用されるケトプロフェンと交叉アレルギーをおこしたとの報告あり)ぐらいか・・・?

とりあえず、「二度あることは三度ある」とならぬよう、なんとなく用心している最中である。

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2008年9月21日 (日)

心疾患合併非心臓手術におけるTEE(学会おまけ)

おかげさまで、学会の教育講演は無事に終了しました。台風もどこかへ去ったようだし。
何が大変って、副都心線の渋谷駅のホームから地上に出るのに10分以上かかってしまい、学会場にたどり着けないんじゃないかとパニックになりそうでした。
でもって、時間の関係であまり説明できなかった事項を補足しておきます。

症例は、
「狭心症の既往がありステント留置後の低位前方切除術」であったが、
「周術期のモニターとしてのTEE」について追加説明しておきます。


1.EF:カテコラミン使用の指標

左室駆出率を測定することで、「カテコラミンを使用するか否か」「カテコラミン量の調節」「カテコラミンが多すぎて心臓が無駄に仕事をさせられている」を判断することができます。EFの測定方法としては、壁運動異常がある場合にはM-modeでは誤差が大きいので、少なくともArea法、できればSimpson法での測定が望ましいです。

心疾患合併症例の術前カンファで最も話題になりやすい計測値がEFですが、EFとは通常LVEFの略であり、心臓の4つの部屋のうちのLV(もっとも大切な部屋ですが)の収縮能の指標でしかありません。EFは心機能の全てを代表する値ではありませんし「非発作時には心エコー上異常のない狭心症患者」というのはゴロゴロいます。「EF70%」と言われても安全が保証される訳ではありませんし、「EF35%」でもLAD梗塞後の心臓をM-modeで測定した値だったら、さほど騒ぐ必要はないのかもしれません。


2.LVDd/LVEDV:Volume管理の指標

 LVの直径や容積、そしてその推移を測定することで、Volume管理の指標とすることができます。「CVPの値を参考にVolume管理を行う」に近い感覚です。

3.DT、E/A ratio:NTG、ニコランジルの指標

 左室拡張能を数値化することによって、NTG、ニコランジルの有効性を確認することができます。NTGやニコランジル投与を開始すると、トゲトゲしかったE/A波がなだらかになるのを見ると、ちょっとうれしくなります。


4.LAAの血栓・モヤモヤエコーの描出

 心疾患合併症例では、周術期の抗凝固薬の管理は麻酔科医の悩みのタネであります。あんまり出くわしたくないシチュエーションですが、術前に抗凝固療法を中断・変更した症例では、左室(とくに左心耳)に血栓がみつかることがあります。左心耳は血栓の好発部位ですが、経胸壁エコーでは観察がむづかしく、「TEEを入れてびっくり!」ということがたまにあります。


5.肺塞栓:右心系拡大+TR

 これもあまり出くわしたくないシチュエーションですが、術中の肺塞栓が即時に診断できます。血栓が直接エコーで見れる場合もありますが(この場合の致死率は高い!)、血栓が小さくても二次的な右心負荷(=RA,RVの拡大およびTR)によって、診断することが可能です。


6.TEE初心者のトレーニング

 TEEといえば「心臓麻酔のおまけ」と考えられやすいのですが、心臓麻酔初心者は麻酔そのもので手が一杯になりやすく、TEEを操作する余裕がないことが多いです。こういった、心疾患合併非心臓手術で積極的にTEEを使用し、麻酔の合間に操作の練習をすることは、麻酔科医にとっても有意義なことだと思います。


7.臨床研究テーマとして(追加)

 欧米に比べて日本の病院が集約化されていないことは広く知られています。「開心術が年2~3000件(もしくは0件)」というのは欧米では当たり前のことですが、わが国では「年50~200件が乱立」しています。よって、心臓麻酔の臨床研究をデザインしようにも、統計的な有為差が出るだけのデータを集めることは困難です。
 だからといって、「日本ではTEEを使った臨床研究はできない」と決め付けるのは早計です。欧米では、麻酔科サブスペシャリティの分化が進み、「心臓麻酔部門」と「ペイン部門」だとあたかも別の科ぐらい交流がない場合が多いのです。一方、わが国の麻酔科医はいまだに「何でも屋」であることが要求されます。ゆえに「硬膜外麻酔がLV拡張能を改善するか?」といったサブスペシャリティを超えた研究の立案・実行は、我が国の麻酔科医のほうが有利だと私は思います。
 「ウチの病院じゃ、開心術は週1回しかないから、マトモな研究はムリだ」と考える医師よりも「ウチの病院じゃ、週4日はTEEが自由に使えるから、なんか研究してみよう」と考える医師に、研究の女神は微笑んでくれるのではないでしょうか。

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2006年12月11日 (月)

JB-POT直前講座2006 番外編

2006年のJB-POTの結果の返送が開始された。さぬちゃんをはじめとして、合格者の皆様、おめでとうございます。

今から約5年前、医学博士号を取得した際に指導教官より送られた言葉である。(ちなみに、彼が博士号を取得した際にも同じ言葉を送られたそうである。)

「結婚はゴールではなくスタートである」というように「学位というのはゴールではなくスタートなんだ。研究者として独り立ちした証であって、ここから医学研究が始まるのだよ。」

新規合格者の皆さん、私は以下の言葉を贈る。
JB-POT合格はTEE画像診断医として独立してスタートに立った証であって、けしてゴールではない。

JB-POTに合格してからのほうが、疑問にぶつかることも多い。しかも、このレベルからの疑問は教科書に正解が載っているとは限らない。だが、こうした疑問から逃げることなく、時間はかかっても一つ一つ対峙してゆくことによって、かつて見えなかったものが少しずつ見えてくるのである。しばしば、TEEを挿入せずとも、ECGやAライン・CVPの波形から、患者の心臓の中で何が起こっているのか推測できるようになってゆく。

麻酔科医として、いや医師として、この見えなかったものが見えてくる悦びはなにものにも換えがたい。私がいまだに、「今日はLVAS、明日はNorwood」という、人使いの荒い大学病院勤務を続けている理由でもある。


ちなみに、JB-POTの合格者のことをJB-POTter(ジェイビーポッター)と呼ぶそうである。

・・・JB-POTterは大学病院の囚人・・・てこと?

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2006年11月 2日 (木)

臨床麻酔学会お礼

 臨床麻酔学会&プチ休暇が終了し、大学病院の日常業務に戻ってきた。学会を主宰するA医大麻酔科のメンバーは、ワークショップ世話人をしながら、別の講演の座長もやり、教育講演演者をあつめたカクテルパーティーを主催しつつも、その合間に大学病院の緊急手術に呼ばれることもあったようであるが、学会運営の表面上はそういった混乱を感じさせるものはなかった。しいて難点を挙げれば、旭山動物園の園長先生が自分の講演している学会のことを「日本麻酔学会」だと、信じきっていたことぐらいかな。

 新研修医制度でなにかと苦労している地方医大教官の一人として、学会運営スタッフのご苦労を推察するとともに、遅ればせながら大変感謝していることを伝えたい。

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2006年9月16日 (土)

質問受け付けます(JB-POT直前講座2006-9)

受験生のみなさまはラストスパートに忙しいことと思います。

TEEに関する質問やコメントは17日正午まで受付し、その夜までには回答する予定です。
その他(進路相談から耐震建築まで?)は、随時回答させていただきます。

今回、私は長崎の学会は参加いたしませんが、10月の臨床麻酔学会ではTEEの教育公演を一コマ担当する予定であります。

では皆様、旭山動物園…ではなく旭川でお会いしましょう。

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2006年9月11日 (月)

Swan-Ganz挿入困難(JB-POT直前講座2006-8)

TR,PHを術前より指摘されている症例では、しばしばSwan-Ganzカテーテルが挿入困難である。SGカテの挿入困難な場合、教科書的には放射線ガイド下の挿入が勧められるが、TEEガイド下の挿入もなかなか有用である(というか、私はこれしか知らない)。TEEでカテーテルが進むべき方向の見当をつけ、同時に弁の開閉するリズムをつかみ、カテーテルを挿入するタイミングをつかむ。具体的な手順は以下のとおりである。

まず、気管内挿管が終わったら、TEEプローべを挿入しておき、内頚静脈への清潔操作をはじめる。

A.刺入部からRAまで

90度のbi-caval viewで画面右側に見えるのがSVCである。カテーテルを15cm程度進めれば、右側から線状の人工が見えるはず。バルーンを膨らませれば先端がわかりやすいが、同時にバルーンの両サイドに弧状のアーチファクト(Side Lobe)が出現するので、カテーテルのワイヤー部と混同しないようにする必要がある。Side Lobeはエコー画面の扇形の縁と同心円状に出現するので、注意深く観察すれば区別できる。

B.T弁を突破(RAからRV)

TRのある症例では第一関門である。45度でA弁がベンツのマークように描出できる画面を探すと、同時にA弁の9時方向にRA、6時方向にRV、3時方向にPAが描出できるはずである。心電図の同期音のリズムを頭の片隅で刻みながら、画面でTが開くタイミングを確認し、T弁が開いた隙に5cm程度ずつカテーテルを進める。RA内に明らかにループが見えるようならば、バルーンを萎ませてループが消失するまでカテを引き戻す。

C.P弁を突破(RVからPA)

Bと同様の画面で、心電図の同期音のリズムを参考にP弁が開くタイミング(P弁が描出困難ならばA弁の開くタイミングにあわせる)をつかみ、5cm程度ずつカテーテルを進める。教科書的には「バルーンを楔入させ、PCWPを確認せよ」とあるが、PHや低心機能の症例ではしばしばバルーンは楔入しない。やみくもにPCWPを追求することは、しばしばカテーテルの肺動脈への穿孔をまねきやすい。

D.左右肺動脈への選択的挿入

上部食道で0度のまま軽くUpをかけると、主肺動脈+右肺動脈+左肺動脈の基部が描出できる。左肺動脈のほとんどは気管の影になるため、TEEでは描出できない(Blind Zoneと呼ばれる)。SGカテは、自然な屈曲があるため、約9割の症例では右肺動脈に流れ着く。右肺全摘など、左肺動脈へのSGカテ挿入が必要な場合には、上記の画面を出しながら、カテにトルクをかけながら進める。


忘れてはならないのは、SGカテの挿入は手段であって目的でなはい。SGカテ挿入に夢中になるあまり、その間に「点滴が全開になっており、心不全患者に急速輸液がされていた」といった事態は、ありがちだが、あってはならないことなのである。「20分以内」などと時間を決めて、それまでにSGカテを肺動脈まで進められなかったならば、スリーブを着せていったん撤退し、体位を整え、外科医が手洗いに行っている間に再挑戦すればいいのである。


また、SGカテの2大合併症は肺動脈穿孔とカテーテル縫込である。

肺動脈穿孔:穿孔が疑われたならば、基本的にはカテーテルを抜いてはいけない。カテーテルがあることで穴からの出血がおさまっていることがあるからである。盲目的にカテーテルを抜いたならば、一気にに出血し、同時に出血点を見失うおそれがある。

カテーテル縫込:SGカテを使用した症例では、閉胸時にカテーテルを5cm程度ひっぱって、カテーテルが動くことを確認しておく。動かない場合には(退室前に)大声で騒ぐ。一回これを見つけると、どんなに横柄な心臓外科医でも、その後しばらくはおとなしくなる(はずである)・・・

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2006年9月 9日 (土)

Swan-GanzとTEE(JB-POT直前講座2006-7)

先日、ひさびさにSwan-Ganzカテーテルを挿入した。よく考えたら、2006年の初Swan-Ganzだった。うちの大学では、10年前から開心術の全例(含む小児)でTEEを使用している一方で、2006年現在開心術の95%以上の症例ではSGカテを使用していない。というのも

「術中にSwan-Ganzカテーテルで得られる情報のほとんどはTEEで得られる」というのが当院のモットーである。個人的にも「TEEとSGから得られるデータの量と質は、テレビとラジオぐらい違う」と思っている。よって「ラジオニュースをテレビで確認することはあっても、その逆はまず不要」だと考えている。


具体的には

 A.PA圧→TRより簡易ベルヌーイの式から算出する

 B.Cardiac Output (Cardiac Index)→TEEよりStroke Volumeを算出しHRを乗じて算出(さらに体表面積で補正)

 C.PCWP
PCWPそのものは直接TEEでは算出できない。しかしPCWPが臨床的重要なのは、(PCWP≒LAPであり)LAPは左心機能の前負荷の指標となるからである(CVPが右心機能の指標であるように)。前負荷の指標ならば、LVEDV:LV end-diastolic volumeが(もっと簡潔にはDs: diameter of systoleが)TEEによって測定可能である。

よって、麻酔科医が術中に前負荷の指標が必要ならば、LV短軸像で収縮期の直径を観察し、その推移を把握しておけば臨床的には十分だとおもう。そしてLVEDVやDsはTEEを挿入できる症例ならば、ほぼ全例で測定可能である。

一方SGカテのPCWPは、肺高血圧や心不全症例ではしばしばバルーンが楔入しない。臨床的に前負荷の指標が欲しい重症例において、えてしてデータが得られないというジレンマがある。

 D.SvO2(混合静脈血酸素飽和度)
SvO2はTEEでは測定できない。しかし、開心術や(SGカテの挿入が検討されるような)重症心不全ならばCVPカテーテルはまず挿入されているので、そこから採血した血液のSaO2を測定すれば概算値は推定できる。SVC=上半身の静脈血になるので厳密には混合静脈血ではないが、臨床的には十分だとおもう。近年では各種の測定機能をそなえたCVPカテーテルも開発されており、SGの必要性というのはますます薄れているようにおもう。

SGはたまには心臓に縫い付けられたり(先々月に某大学付属病院で、縫い付けられたSGカテを無理やり抜去して患者死亡を招き、お約束の白衣の謝罪記者会見がTVで報道された)、肺動脈を突き破ったりすることもある。一方、TEEプローべにはまずその心配はない。外国ではTEEプローべによる食道穿孔の症例報告もあるが、多くはP・・・・社やA・・・・・社のような外資系メーカーの武骨なプローべによるもので、アロカや東芝といった国産メーカーの華奢なプローべによる穿孔の報告は、私はまだ知らない。

しかしながら、当院でもたまにはSGカテを使用している。
SGカテの長所は何だろうか。

 E.ペーシング機能が付加できる

SGカテにはペーシングリードを備え、一時的ペースメーカーとして使用できるものが販売されており、治療手段としても使用可能な種類がある。TEEは基本的には診断しかできない。文献的には食道ペーシング機能をそなえたTEEプローべの研究報告はあるが、私自身は見たことがなく、実用化にはまだまだ時間がかかりそうである。

 F.術後管理など中長期のトレンドを観察
「TEEとSGは、テレビとラジオぐらい違う」と先にのべたが、現代でもラジオの需要がまったく無くなった訳ではない。情報量が少ないからこそ、カーラジオのように「ラジオを聴きながら運転」といった他の操作が可能なのである。術後にICUで、「他の患者の処置をしながらさりげなく心機能のトレンドを観察する」という技は、TEEでは困難である。

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2006年9月 3日 (日)

ロスとTEE(JB-POT直前講座2006-6)

よく考えてみれば最近あまりTEEに役立つ情報がないので、前回の記事に追加しようとおもう。

臓器移植や盛んな米国では、ホモグラフト(死体より採取し、冷凍保存した)弁の入手が容易なため、ロス手術はわが国より盛んに行われている。複雑な肺動脈弁の形成術が不要になるからだ。わが国で「ロスの名手」と噂される心臓外科医の多くが小児の心臓外科医であるのに比べて、米国からの報告は成人を対象とする施設が多いように思う。

ゆえにこの手術をめぐる知識は、NBEなどの試験に出やすい。また、JB-POT出題者の多くはNBE合格者であり米国留学経験者なので、日本では一般的とはいえないこの手術も出題されるリスクは(わが国で行われる件数の割には)高いとおもう。なお、うちの施設は(幸か不幸か)ロス手術を得意とする外科医が在籍している。

若年者の大動脈弁疾患は二尖弁であることが多い。(JB-POT直前講座18)参照。
二尖大動脈弁にロス手術を行う場合、に最初に確認すべきなのは「肺動脈弁が三尖であるか」どうかである。大動脈二尖弁は高率に肺動脈も二尖であり、この場合はロス手術の適応とならない。肺動脈弁は食道から遠く、TEEでの描出が困難なため、術前のTTEで不十分な場合には開胸後に直接肺動脈にプローべをあてて検索されることが多い。

人工心肺離脱後は、とにかく出血との戦いに苦渋することが多い。なんせ、吻合箇所が多いし人工心肺時間も長くなりがちである。かといって、「出血による低血圧」だと思っていたら「植え替えた冠状動脈が屈曲していた」こともあるので、血圧が低下した時にはLV短軸像で「hypovolemia」なのか「asynergyをともなうLV failure」なのかをチェックしておきたい。

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2006年9月 2日 (土)

ロス疑惑2006(JB-POT直前講座2006-5)

更新が滞っており受験生の皆様、申し訳ありません

8月上旬に世間をさわがした医療関連報道のなかに、水戸市の病院において「18才の少年がロス手術の翌日死亡」した事件のことをご記憶だろうか?「自分のレベルをわかっていない外科医が難手術に無謀な挑戦をした挙句の悲劇」といった報道が目立ったが、心臓手術チームの一員として、この事件から学べることについて考えてみようと思う。


1.ロス(Ross)手術について

大動脈弁疾患に対する、弁置換術の一種である。自己の肺動脈弁を切除し、大動脈弁に植え替える。肺動脈弁は、
・A.自己心膜で形成
・B.ゴアテックスシートで形成
・C.ホモグラフト(死体より採取し、冷凍保存した弁)で置換
の3法がある。

・利点としては
 「自己組織なので成長につれて大きくなる」
 「自己組織なのでワーファリン(=催奇性あり)が不要」
とされているが、

・欠点としては
 とにかく難しい。「大動脈から冠状動脈を切り離して大動脈弁を切除し、肺動脈弁を切除し大動脈に植え、冠状動脈を植え替え、肺動脈弁を形成して肺動脈に植える・・・」と文章で書くのは簡単だが、手術時間は8時間~エンドレスである。簡単にホモグラフト肺動脈弁が入手できないわが国では、必然的にAかBで肺動脈弁を形成せざるをえず、ますますこの手術を困難なものにしている。よって、わが国でこの手術を独力で完遂するには、弁置換のみならず、大動脈外科(Bentall)手術をマスターし、冠動脈を植え替える手術(Jateneなど)、肺動脈弁形成術(ファロー四徴手術など)などの先天性心疾患手術経験が必要になると思われる。成人・小児・大血管にわたる広範な心臓外科トレーニングが必要と思われ、現在独立してこの手術を独立して行える心臓外科医は国内でせいぜい20人と推定できる。


2.この少年に適応のあった他の術式は?

・D.機械弁(SJMなど)による弁置換
・E.ステントレス生体弁(Freestyleなど)による弁置換
・F.ホモグラフトによる弁置換
・G.心尖部から導管を建て、その先を弁置換

などが挙げられる。

それぞれ
・D.「もっとも簡単で丈夫」だが「一生ワーファリンが必須(女性の場合は妊娠が困難になる)」
・E.「Dよりやや煩雑だが耐久性がやや劣る」だが「ワーファリン不要」
・F.「手術難度としてはEレベル」だが「わが国ではホモグラフト弁の入手が困難」
・G.「きわめてまれにしか行われない」(私自身は直接みたことはありません、狭小弁輪などで行われるらしい)


3.あなたな~らどうする~♪
というわけで、(後だしじゃんけんなのは承知だが)、どうすればこの悲劇が回避できたのだろうか

ロス手術の利点は、前述のとおり「弁が成長する」「ワーファリン不要(=妊娠可能)」なので、小児や若い女性に行われることが多い。今回の報道で(心臓外科)業界関係者の多くが首をかしげたのが、「19才の少年」だったことである。身長や心臓サイズはほぼ成長が終了しているだろうし、妊娠の可能性はない。術式の選択としてもDEFあたりの説明をした上で、「ロス手術という選択肢もあるが危険性も高い」と説明するのがフェアなやり方だと思う。(あるいは、水戸市という土地柄か「納豆のない人生などありえない」と思ったのか・・・?)

うちのICUで、「私(=30代既婚未出産)がARになったら、ホモグラフトかフリースタイルだな。外科医がだれでもロスは怖いよ。出産はワーファリンをヘパリンに切り替えて体外受精かな。」と言うと、某心臓外科医が「そんなのは機械弁に決まってるじゃないか。手術中に予期せぬ出血があったとかいって、術式を変更すればいい。安全性が高く、麻酔科医が産休をとる心配がなくなるなんて、うちの医局にとっては最適の術式だ」

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2006年8月15日 (火)

Center line method(JB-POT直前講座2006-4)

今日はお盆のせいか、比較的手術件数も少なく、ひさびさに午後はゆっくり心エコー室にこもることができた。エコー室長でもあるM助教授から、いろいろ試験に有用そうな情報を仕入れてきたので、その一端をご披露しようと思う。

「Center line method」とは、左室局所壁運動異常を定量化する方法の一つである。10年前の「coronary steel」、5年前の「ischemic preconditioning」のように、1980年代には循環器業界ではそれなりに流行った単語らしいが、現在の多くの心エコーの教科書では掲載されていない。しかし、JB-POT出題アウトラインには、なぜか含まれているので、受験予定者ならば勉強してもソンはしないと思う。

Centerline_method

Center line methodは、そもそも心カテ造影における壁運動異常の定量化法であった。拡張期と収縮期の輪郭の中点をつなぎ、その中点をつないだ線を基準線とし、そこからの逸脱や肥厚の程度を100分割してグラフ化することによって評価する方法である(詳しくは図をクリックしてください)。

この方法は収縮期と拡張期の双方で明確な輪郭線を描出していることが前提となる。実際の心エコーは、両端のドロップアウトや乳頭筋と心筋の区別などの問題があり、全例で明瞭に描出することは困難である。(日常臨床では、いわゆる「心眼」でトレースして、なんとかしのいでいるのだが・・・)。ゆえに、Center line methodという用語はいつしか、心エコーの臨床現場からは忘れられていったのだと思う。

しかし、近年の心エコー高級機種のなかには、color kinesis(壁運動異常をカラー変化で表示するもの)モードが備わったものがある。Center line methodはその礎としていまも生きているのだろう。


でも、個人的には出題アウトラインとして取り上げるならば、もっと大事なこともあると思うのですが・・・「胸水の描出法」とかね・・・出題委員のみなさま、そろそろアウトラインも改定してもいい頃なのでは・・・?

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